大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)160号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人阿弥栄太郎辯護人片山通夫の上告趣意について。

原審は、論旨所論の通り「被告人が、川島保夫から同人及び原審相被告人阿弥二郎外一名共謀の上窃取した「しらす」漁業用袋網二張を、その賍物であることを知りながら、代金壹萬圓で買受けた」との事実を認定して、賍物故買罪に問擬處斷したのであるが、この原審の事実認定は、原判決擧示の證據に照らし首肯するに難くないのである。論旨は本件賍物が三名共謀して窃取したものであるとすれば、たとえ事実上川島保夫一人で賣却行爲をしたとしても、それは川島が他の二名の委任を受け、その代理人たる資格をも兼ねて行動したものとみるべきであるから、法律上の共犯者三名の賣却行爲と認定するのが実驗法則の命ずるところであると主張するのである。しかし、窃盜犯人は窃盜行爲により賍物の上に法律上正當にこれを處分し得る權限を取得する筈がないのであるから、その賍物を他に賣却するに當っても、それは唯單に賣買の形式をとるだけのことであって、少くとも犯人自身の立場においては、むしろ事実上の處分たるにすぎない。從って共犯者中の一人が、賍物を賣却する場合においても、論旨の主張するように、他の共犯者から處分の承諾を得るとか、或はその委任を受けるとかする必要は、法律上毫末も存在しないのであり、又実際において單獨專斷でこれが處分をなすことも往々存在する事例なのである。されば、原審が前説示の如く判示證據にもとづいて、川島保夫單獨の處分であることを認定したからというて、この事実認定を目して法理に背き実驗則に反するものであると非難することはできない。又原審が右の事実を認定し得ると思料した以上、論旨の主張するような窃盜共犯者相互間における委任の有無その他の關係は、本件賍物罪の成否並びに所斷に關し何等消長を來すべき事項ではないのであるから、原審がそれらの點につき審理しなかったのは、むしろ當然であり、審理不盡を以て論ずべき限りでない。思うに、刑法第二百五十七條第一項の法意は、同條項所定の關係あるものの間においては、賍物に關する犯罪につき、それらのものに對して刑を科するのは情誼上苛酷に失するとしたに過ぎないのである。從って窃盜本犯の共犯者中に、たとえ賍物罪の犯人と同條項所定の關係に立つものがいたとしても、そのものが賍物罪に關與していない場合にあっては、同條項を適用して刑を免除すべきものではない。この事は同條第二項において、親族關係のない賍物罪の共犯者に對して、前項の例を用うべきでない旨規定していることに徴しても明白なのである。

以上説示の通り、原判決には所論のような違法はなく、論旨は結局獨自の見地に立って、正當な原判決を非難するに過ぎないものであって採用に値しない。

よって刑訴第四百四十六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例